11. 社会的葛藤
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1. 対人葛藤
1-1. 相互依存状況
対人関係においては、しばしば相互依存の状況が生じる 一方の利害が他方の利害を左右するような状況で、二者間の利害が対立するとき、そこには対人葛藤が生じる 1回限りのゲームにおいては、相手がどのような選択をするかに関係なく、「自白する」のほうが「自白しない」よりも大きな利益を得られる
実際に、これまでに行われた実験でも、多くの実験参加者が非協力を選択している
敢えて協力を選択するのは、向社会的動機が強い人など、一部の参加者に限られる
繰り返しこのゲームを行う場合には、協力は必ずしも不合理とはいえないことが明らかにされている
初回は必ず協力し、2回目以降は1つ前の回に相手がとったのと同じ選択をする
アクセルロッドによれば応報戦略が有効なのは、
自分からは裏切らない上品さ
相手の裏切りに対しては即座に反応する報復性
一度裏切った相手でも協力するようになれば即座に反応する寛容性
戦略の糸が相手からもわかりやすい明瞭性
現実の対人関係でも、同じ相手と交わされる相互作用が1回のみということはほとんどない
したがってそのような状況においては、知らず知らずのうちに、私達もこのような応報戦略をとっていると考えられる
1-2. 社会的ジレンマ
囚人のジレンマは2者間の葛藤状況だが、3者以上の成員からなる集団内ではより複雑なジレンマが生じる
集団成員それぞれが協力、非協力のいずれかを選択することが可能で、個人の視点から見れば、協力を選択するより、非協力を選択するほうが利益は大きいが、集団成員の全員が非協力を選択すると、全員が協力を選択した場合よりも、個々人が受ける利益が小さくなってしまう(Dawes, 1980) このような状況は現実社会の中にも多数見られる
公共財を維持するには相応のコストがかかるため、関係者が一致団結してコストを負担すべき
しかし個人の立場から見れば、負担すべきコストを払わずにただ乗りしたほうが利益を得られる
一方このようなフリーライダーの存在を許すと、他の関係者の協力意欲が低下し、公共財の枯渇を加速させるという負の連鎖を招いてしまう 3者以上の利害が対立する社会的ジレンマ状況においては、その関係性が複雑化するため、応報戦略がうまく機能しない
社会的ジレンマの解決に何が有効かについては、いまも研究が進められている
2. 集団間葛藤
2-1. 集団に関する知覚的バイアス
このようなカテゴリー化によって、集団が構成されると、その集団はあたかもまとまりをもった実体をもつものとして知覚され、同じ集団に属する成員は互いに類似していると知覚される(同化効果) 人の属性は本来連続的であり、集団内においてもばらつきがあるはずだが、集団をカテゴリーによって区別することで、集団間の差異が強調され、集団と集団の間が空白化する
結果として、ある集団に属する人は、他の集団とは全く異なる属性を共通してもっているかのように誇張して知覚される
同じ集団に属する成員は互いに類似していると知覚されるが、その程度は、内集団と外集団とでは非対称 一般に外集団を構成する成員は、内集団よりも均質性が高いとみなされ、それと比べれば、内集団は多様な成員の集まりと見なされやすい
生じる原因
内集団と外集団とでは交流の程度に違いがあること
またその結果として、外集団成員に対する単純化した印象の形成は、偏見やステレオタイプをさらに強化することにつながる なお、内集団の規模が著しく小さかったり、内集団が脅威にさらされたりした場合などには、内集団においても均質化が促進されることもあるが、稀
外集団成員は類似して見えるため、自分の人種の顔は認識しやすいのに、異なる人種の顔は区別できない
2-2. 内集団ひいき
集団が内集団と外集団に区別されると、知覚レベルのバイアスに留まらず、内集団を外集団よりも優遇する内集団バイアスが生じる 内集団や内集団の成員を肯定的に評価したり、多くの報酬を分配したりすると同時に、外集団を冷遇する方向に働き、両集団の相対的な地位の差を拡大させる
内集団ひいきの主要な理論
限られた資源をめぐって集団同士が競合する場合に、集団間に葛藤が生じるとする理論
集団間には利害対立があり、外集団は内集団の利益を脅かす存在だからこそ、内集団ひいきが生じる
心身ともに健康な少年が参加したサマーキャンプを利用して、集団間の葛藤の発生とその解消の過程を追った現場実験
3つの段階から構成
内集団を形成する段階
少年は11名ずつ、2つの集団に分けられ、それぞれの集団は互いの存在を知らないままキャンプ生活を送った
この間、様々な活動を通じて親睦を深め、集団内にはリーダーや規範、グループの名称やシンボル、独自の合図などができていった
利害対立による集団間葛藤を導入する段階
相手集団の存在を知らせ、対面させて、少年たちにとって魅力的な賞品をかけたソフトボールや綱引きなどの対抗試合を催した
その結果、いずれの集団にも相手集団に対する敵対感情が生まれ、試合以外の場面でも罵倒をしたり、夜中に相手の団旗を燃やすなど、攻撃行動(→9. 対人行動)がエスカレートしていった 前段階で生じた集団間葛藤を解消する試み
まず、競争的でない場面(映画、食事など)で2つの集団を一緒に過ごさせるという試みがなされたが、葛藤は解消せず、両者の対立はむしろ深刻化した
そこで次に、共通の上位目標を設定した
たとえば、食料を積んだトラックが溝にはまって動けなくなってしまったなど、集団という区別を超えて、すべての少年が協力しなければ解決できないような状況を複数用意し、それに取り組ませると、葛藤や敵対的感情は徐々に減少し、互いの間に有効的な感情が芽生えるようになった
その後の研究で、内集団ひいきは、現実的な利害対立がない場合や、成員間の相互作用すら存在しないような場面でも生じることが指摘されている
具体的にはまず2種類の抽象画を見せ、どちらの絵がより好きかという回答によって集団を分けたり、スクリーンに多数の点を映し、その点の数を推測して、過大推測をした集団と過小推測した集団に分けたりするなど、人工的な規準で集団を二分する
そのうえで図11-2のような分配マトリクスによって、匿名の内集団成員1名と外集団成員1名についての報酬の分配額を決める
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マトリクスに記載されているのは分配される得点であり、実験終了後に実際の報酬に交換されることになっている
こうしたマトリクスには種類があり、それによって分配がどのような動機に基づいているかが推測される
例えば、図11-2の上段に示したマトリクスでは内集団成員利益を増やそうと思えば思うほど左側の選択肢を選ぶことになるが、内集団成員の利益の増加と外集団の利益の現象は連動するようになっている
一方、下段に示したマトリクスでは、より右側にある選択肢を選ぶほど内集団の絶対的な利益は増えるが、それ以上に外集団の利益も増える
したがって、もし単純に内集団成員の利益を増やしたいのではなく、外集団成員の利益との差を広げたいという動機に基づいて報酬分配を行うのであれば、このマトリクスでは左寄りの選択肢を選ぶはず
一連の最小条件集団パラダイムの実験で得られた結果は、まさに内集団の利益の差を拡大させるもの
人はどんな些細な基準であっても集団が内集団と外集団に区分されれば、対面したことのない内集団成員に対して内集団ひいきすること
内集団成員の利益の一部を犠牲にしてさえも、外集団成員の利益との間には明確な差をつけようとするということ
また、人は自尊感情を高めたいという基本的な動機づけを持っており(自己高揚動機)、外集団に対して内集団の地位を優位に保つことは、望ましい社会的アンディティを持つこと、ひいては自尊感情を高めることにつながる 社会的アイデンティティ理論によれば、それゆえに、人は内集団と外集団の利益の差を拡大する方向に内集団ひいきをするという
実際、現実場面においては、所属している集団の凝集性が高い場合や、集団への同一視が強いほど、内集団ひいきが起こりやすいなど、この理論を支持する方向の知見が報告されている
最小条件集団パラダイムに基づく実験と、その説明としての社会的アイデンティティ理論は、単に集団を何らかのカテゴリーで分割するだけで、外集団を貶めようとする動機が働くという強い仮定を含むものであったため、その後多くの反論が提出された
この仮説では、詐称条件集団パラダイムが相互依存の状況であり、個々の参加者に互酬性(返報性、互恵性)が期待されたことに注目をしている 最小条件集団パラダイムでは、集団成員は互いに匿名で、直接的な相互作用もないなかで、内集団成員と外集団成員への報酬の分配額を決定することが求められていた
またこの決定は、参加者自身が受け取る報酬とは無関係だったため、タジフェルらはこの実験のパラダイムは相互依存関係がない状況だと仮定していた
しかしその一方で、実験の参加者には、参加者全員が同様の報酬分配を行うという説明がなされていた
つまり各参加者は、他者に報酬を分配する者であると同時に、他者から報酬を分配されるものとして、自分の役割を捉えていたと考えられる
このような状況は、現実には相互依存の関係はなくとも、それに近似した関係性が認識される可能性がある
そして、相互依存の関係が存在する集団内では、集団成員は互いに助け合うものだという一般互酬性が成り立つと考えられる なぜなら、閉ざされた関係性の中では他者に与えた恩恵が回り回って自分に帰ってくる(間接互恵性)ことが期待されるから 実際、報酬を分配する際、互いに分配し合うという互酬性(互恵性)のある条件と、分配するのは自分だけで、被分配者になることはないという条件を設定したところ、後者の条件では内集団ひいきが起きなかった(神・山岸・清成, 1996) この結果から最小条件集団パラダイムに見られる内集団ひいきは、内集団成員に利益を与えることが目的であって、外集団を差別することが目的ではないことがわかる
外集団成員の冷遇は、あくあmでも内集団成員を優遇することに伴う副産物
2-3. 集団間葛藤の解消
閉ざされた一般互酬仮説は、進化心理学に基づく考え方 しかしその由来がどうであれ、内集団ひいきは集団間葛藤を招くものであり、特にグローバル化が進んだ現代においては、その解消が期待される 集団間葛藤の解消
外集団成員との接触頻度を増やせば、自ずと葛藤が解消するという考え方
だが、サマーキャンプの実験がそうだったように、単に接触機会を増やすだけでは逆効果となることも多い
互いに協力しなければ達成できないような上位目標を導入することが重要
上位目標を設定することにより、対立していた集団がより上位の集団に包含されると、外集団の成員も1つの大きな集団の内集団成員として認識されるようになる
しかし上位集団に包含されても、それぞれの集団が当初かあら持っていた社会的アイデンティティが消失しない場合もある
集団をより小さな集団に分割する
各々の集団が共通の上位目標の達成に置いて独自の貢献ができるようにすることが効果的
内集団と外集団とを区別する特徴を目立たなくする
3. 組織内葛藤とリーダーシップ
3-1. 組織内葛藤
組織成員は共有する目標を達成すべく、それぞれの仕事をこなしている
しかしたとえ上位の目標は共通でも、役割や地位が異なれば、個別の問題において利害が対立することがある
3-2. リーダーシップ
組織内の葛藤は、時として組織改革の契機となることもあるため、必ずしも避けられるべきものではない
しかし、組織が全体として目標に向かうためには、それをまとめあげるリーダーシップが必要 初期のリーダーシップ研究はリーダーに備わる個人特性を追求する特性アプローチが主流
歴史に名を連ねる偉大なリーダーの性格、知能、態度などを調べれば、リーダーとしての適性がわかるはずだと考えられた
しかし、特定の特性を持つものが必ずしも良いリーダーにはなり得ないことが次第に明らかになり、研究は行動アプローチに移行した
優れたリーダーはどのような行動をとっているかを調べようとするもの
リーダーとして相応しい行動様式というものがあるならば、特別な得絵師を持ち合わせていなくとも、その行動様式に則った行動をとることで、集団成員に対して効果的な影響力を持つことができる
子どもたちをランダムにグループ分けし、そこに3つのタイプのリーダーをつかせて、それが子どもたちの行動や態度、作業効率などに与える影響を調べた
「専制君主型」
グループ活動の内容についての決定に子どもを一切関与させず、すべてをリーダーが決定した
作業効率は良いものの、子どもたちの意欲が乏しく、仲間内で攻撃行動やいじめが見られた
「民主型」
活動内容に関する決定に子どもたちを積極的に関与させた
集団の雰囲気が良く、作業効率が良かった
「放任型」
リーダーは何も決断をせず、子どもたちの自由に任せた
作業がはかどらず、意欲も低かった
その後の研究では、行動そのものというよりも、そうした行動が果たす機能に関心は移行していった
数多くの研究が行われているが、いずれもリーダーシップにおいて重要な機能は2つの次元に大別できるという点ではほぼ一致している
集団の目標達成や高水準の課題遂行を志向する機能
集団成員間の良好な人間関係を志向する機能
目標達成行動を目指すP機能(Performance) 集団維持行動を目指すM機能(Maintenance) 4タイプ
pm型: 両方低い
P型: Pのみ高い
M型: Mのみ高い
PM型: 両方高い
他のタイプに比べて、組織の生産性や、成員の意欲、満足感、会社への帰属意識、精神的健康などに、良い影響を与えていることが明らかになった
三隅は、リーダーがこれらの機能に基づいた行動をとることができるように、訓練プログラムの開発にも従事している
3-3. 近年のリーダーシップ研究
ここまでに紹介したリーダーシップ研究は、あらゆる場面を通じて一貫して効果的なリーダーシップというものがあるはずだという前提のもとで行われたもの
20世紀後半に、効果的なリーダーシップは、組織のおかれた状況によって異なるとする考え方が強くなった
変化する状況に素早く的確に対応するためのリーダーシップを模索する
20世紀終盤以降は、経営環境の大きな変化に伴い、組織改革の重要性が指摘されるようになった
変革型のリーダーシップ
組織を取り巻く周辺環境の変化を的確に把握し、組織全体としてその変化に対応できるような創造的変革を生み出していくといった機能
これはリーダーシップの機能をもっぱら組織内のものと捉えてきた従来の考え方を大きく変えるものであり、今後も時代の変化に伴い、求められるリーダーシップの機能は変遷していくものと思われる